創業70年 日本橋のまちとともに歩む「舟寿し」。新入社員だったお客様が家族連れに。変わる時代の中で守り続ける「お客様第一」

写真左から
若女将の二永伸子さんと大女将である母の深澤和子さん
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若女将の二永伸子さんと大女将である母の深澤和子さん

変わる日本橋、変わらぬ味—舟寿しの歩み
東京都中央区日本橋小舟町に店を構える「舟寿し(ふなずし)」。
昭和26年(1951年)の創業以来、江戸前寿司の伝統を守り続け、多くの人々に愛されてきました。

時代の流れとともに日本橋のまちは大きく変わりましたが、舟寿しは「お客様第一」を掲げ、その味とおもてなしの心を受け継いでいます。
今回は、そんな舟寿しを担う若女将の二永伸子(になが のぶこ)さんに長年の歩みについてお話を伺いました。

目次

「お客様第一」を徹底し、世代を超えて愛される店に

—— 舟寿しが長年お客様に愛されてきた秘訣を教えてください。

二永さん:舟寿しのコンセプトは、創業当初から『お客様第一』です。この考え方は70年以上変わることなく、代々受け継がれています。お客様が何を求めているかを常に考え、心地よく食事ができる空間を提供することを何よりも大切にしてきました。

—— 舟寿しでは、お客様との関係を大切にして長く信頼関係を築いてきたのですね。

二永さん:当店の板前は30年以上勤務しており、長い間、一緒に舟寿しの味を守ってくれています。
板前は技術だけでなく、人としての信頼関係もとても大切です。まだ現場に立っている母(深澤和子さん)の人柄もあり、ずっと支えてくれています。長く一緒に働くことで、舟寿しの味を深く理解し、伝統を守り続けることができています。

―― 舟寿しに来られるお客様はどのような人がいらっしゃるのでしょうか?

二永さん:舟寿しには、長年通い続ける常連のお客様が多いのも特徴です。
創業以来、地元の企業の社長や会社員が新入社員時代から足を運び、定年を迎えた今も変わらず訪れる方もいるのだそうです。
長くお付き合いのあるお客様の中には、若い頃から通ってくださっていて、今ではご家族を連れてきてくださる方も多いですね。定年退職の際に送別会を開いてくださるお客様もいらっしゃいます。こうして世代を超えて舟寿しを利用していただけるのは、本当にありがたいことです。

板前の木村さん
板前の遠藤さん

舟寿しの歴史について

―― 舟寿しはどのようにして始まったのでしょうか

二永さん:もともと実家は呉服屋を営んでいました。日本橋は商業の中心地で、昔から多くの職人さんや商人が行き交う街でした。そんな中で、父が寿司店を開くことを決意し、1951年(昭和26年)に『舟寿し』を創業しました。

―― もともとは呉服屋だったんですね。なぜ寿司店に転換されたのか教えてほしいです。

二永さん:戦後、日本橋の街も大きく変化し、人々の生活様式が変わっていく中で、食文化への関心が高まっていきました。当時、寿司は特別な日に食べるごちそうのようなもので、街の人々に愛される飲食店を作りたいという思いから寿司店を始めたと聞いています。

その後、創業から順調にお客様が増え、最盛期には日本橋エリアに3店舗を構えるまでになりました。昔から地元の方々や周辺の企業の方々がごひいきにしてくださり、会社の宴会や接待の場としてもよく利用していただいていました。

―― 舟寿しの運営ではお母さまである深澤和子さんの存在が大きいとのことで、二永さんが舟寿しへ入るきっかけにもなられたのでしょうか。

二永さん:父が1982年(昭和57年)に他界した後は、母(深澤和子)が中心となり、舟寿しを支えてくれました。母はとても責任感が強く、板前たちともしっかりコミュニケーションをとりながら、一生懸命お店を守っていました。その姿を見て、私もできる限りのサポートをしようと思い、1987年(昭和62年)頃に会社を退職し、家業に入りました。

―― ご家族で支えながら、お店を守り続けてこられたのですね。現在の店舗に建て替えたのはいつ頃でしょうか?

二永さん:1991年(平成3年)に現在のビルに建て替えました。建物が古くなってきていたこともありますし、より多くのお客様に快適に過ごしていただけるように、しっかりとした設備を整えたいと思ったんです。1階にはカウンター席、2階には個室、地下にはテーブル席を設け、接待や家族の集まり、宴会など幅広い用途に対応できるようにしました。

平成3年に建てられた日本橋 舟寿しの店舗が入っている深澤ビル

江戸前寿司としてのこだわり——手間を惜しまない職人技

—— 舟寿しならではの寿司のこだわりについて教えてください。

二永さん:舟寿しでは、すべてのネタにひと手間を加えることを大切にしています。漬けや昆布締め、小肌の仕込みなど、江戸前寿司の伝統的な技法をしっかり守りながら、より美味しく仕上げています。
お寿司のネタは毎朝、板前が豊洲市場へ行って直接目利きをして仕入れています。30年以上舟寿しで働く板前が厳選することで、新鮮なネタを提供できるんです。

お寿司はどのネタも新鮮でした!
(写真は特上にぎりセット)
寿司を引き立てる卵焼きも、丁寧に焼き上げる自家製のだし巻き卵。
甘さ控えめの上品な味わいが特徴で、多くのお客様に好評です。
特上ちらしセットも新鮮なネタばかりで、
かんぴょうが乗ったご飯も絶品でした。

世の中の変化や影響に対して

—— 2018年には築地市場から豊洲市場への移転も大きなイベントだったかと思います。何か変化はありましたか。

二永さん:はい、築地市場から豊洲市場への移転は大きな変化でしたが、幸いなことに、これまでお付き合いのあった仕入れ業者さんのほとんどが豊洲へ移り、変わらず関係を続けることができています。市場の場所は変わりましたが、これまでと同じように新鮮なネタを仕入れ、お客様に提供できています。

—— 2021年にはコロナ禍となり、当時はどのようにされていましたか。

二永さん:正直に言うと、コロナ禍でも『どうしてもお店を開けてほしい』というお客様の声が多くありました。そのため、感染対策を徹底しながら、1組ずつ個別に対応する形で営業を続けました。光触媒の空気清浄機も導入し、お客様に安心してお食事を楽しんでいただけるように工夫しました。

変わりゆく日本橋のまちと舟寿しのこれから

—— 日本橋のまちの変化について、どのように感じていますか

二永さん:昔の日本橋は、繊維会社や製薬会社が多いビジネス街でした。買い物をする場所もデパートくらいしかなく、今とはまるで違う雰囲気でしたね。今ではマンションが増え、新しい住民の方々も増えてきています。

―― これからの舟寿しについて

二永さん:時代とともに街の風景や人々のライフスタイルも変わりますが、私たちは変わらないものを守り続けていきたいと思っています。お客様とのつながりを大切にしながら、これからも日本橋の老舗として、江戸前寿司の魅力を伝え続けていきたいですね。

―― 本日お話を伺って、舟寿しが”人と人をつなぐ場所”なのだと実感しました。これからも変わらぬ味とおもてなしを守り続けてください。本日は本当にありがとうございました。

二永さん:こちらこそ、ありがとうございました。時代が移り変わる中で、お寿司の楽しみ方も少しずつ変わってきています。でも、私たちはこれからも『お客様第一』の精神を大切にしながら、舟寿しの味とおもてなしの心を守り続けていきたいと思っています。またいつでもいらしてくださいね。

店舗名:日本橋 舟寿し(公式サイト)
住所:東京都中央区日本橋小舟町11-2 深澤ビル内

<アクセス>
東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅 A4出口またはコレド室町2出口から徒歩7分
東京メトロ日比谷線 人形町駅 A5出口から徒歩6分

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